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真似てかっこよく『アイデア』は愛では?

2021-02-16

下町の空気が残る東長崎駅周辺。駅から歩いてすぐに目に飛び込んでくるのが、ひときわ人の集まるコーヒースタンド「MIA MIA」。アーチ窓から覗くのは、オーナー/バリスタのヴォーン・アリソンさんを中心としたお客さんの楽しそうな会話と表情。

オーストラリアの先住民の言葉で、家族や友人、通りがかった人などが集うシェルターとして建てられた小屋を意味する「MIA MIA」。その名のとおり、さまざまな人が集いコーヒーと会話を楽しむこの空間をつくったのは、ヴォーンさんの妻であり建築家のアリソン理恵さん。人が集う空間づくりの工夫や、住宅にも落とし込めるインテリアのコツを教えてもらいました。

MIA MIA

住所:東京都豊島区長崎4-10-1
営業時間:月・水・木・日曜8:00〜20:00(L.O 19:30)、金・土曜8:00〜23:00(L.O 22:30)
定休日:火曜日
※祝日は8:00〜23:00営業
※火曜日が祝日の場合は8:00〜23:00営業、翌水曜休み
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かわいくて自由な意匠が満載。
元ブティックをコーヒーショップに

メルボルン出身のヴォーンさん。来日してから10年以上コーヒーの仕事をしており、理恵さんと「いつか一緒になにかできるといいね」と話していたそう。そんななかで見つけたのが、もともとブティックだったこの物件。

「元オーナーさんの思いがいっぱい詰まった、かわいらしくて自由な意匠がとても気に入って。2つ並ぶアーチの窓や、角の丸い窓のついたショーウィンドウ、内部の垂れ壁や小さなステージなど、今の時代なかなかないチャーミングさに一目惚れしたんです。建築士としても『私、こんなに自由にやれているだろうか?』と思い直すほど、ぐっとくる建物です」

「はっきり言ってやりたい放題の物件です」と笑う理恵さん。意匠のかわいさももちろん、『町におもしろいことをもたらしてくれる人に入ってほしい』と入居者を募集していた大家さんへの共感も大きな決め手のひとつでした。

誰かと出会いたいとき、
話したいときに迎え入れてくれる空間づくり

遊び心の詰まった意匠は残しつつ、リノベーションするうえで理恵さんがこだわったのが、どんな世代の人にも居心地の良い空間づくり。原宿VACANTで使われていた6mの天板のテーブルを中心に、もともとあった小さなステージを活かしたラヴァーズシート、お店の外の席、という3つの空間に、こんな思いを込めています。

「ヴォーンが『日本の喫茶店やコーヒー屋さんは世代が分断しすぎてる』ってずっと言い続けていて。喫茶店に行く若い人は最近増えてきましたけど、おじいちゃんおばあちゃんはサードウェーブコーヒー屋さんにあまりいないし、○○風みたいなひとつのスタイルを前面に出すと、ある人には心地良くても、そうでない人も生まれてしまうんですよね。だから、既存のスタイルに回収されないバランスにはこだわりました」

その精神はデザインだけでなく、サービスの姿勢や雰囲気づくりにも映し出されています。

「ひとりになれるコーヒー屋さんはたくさんあるけれど、選択肢のひとつとして、MIA MIAは誰かと出会いたいときや話したいときに来てほしいなと思って。だから、人が自然と会話したくなるような雰囲気づくりやレイアウトにはとくに時間をかけました」

エスプレッソとシナモンロール。

IDEA1:座り方の工夫で、ひとつの空間に多様な居場所を

みんなが集うことがコンセプトのMIA MIA。大きなテーブルを囲んでスタッフもお客さんも全員が会話を楽しむイメージが最初からあったと言います。

「お客さんがどの席にいても目が届くし、声をかけられる距離感を意識しているけど、気持ちによって選べる場所をつくりたかったんです」という理恵さん。

「たとえば、小さなステージを活かしたラヴァーズシートは、他のスペースとは床の高さも違うし、オーストラリアのアーティストの家具を使って、特別感のある空間にしています。大きなテーブルと距離は近いけれど、プライベート感もあるようになっていて。そのときの気持ちによって、椅子の向きをちょっと変えれば、『ふたりで話したいです』って姿勢も示せるし、みんなと話したいときはみんなのほうに体を向けられますし」

住宅でも、小上がりなどの小さい居場所をつくったり、場所によって座り方の種類を変えたりするだけで、その時々の自分の気持ちに寄り添った空間を生み出せるのだそう。

「仕事モードになれるオフィスチェア、ごはんをゆっくり食べられるダイニングチェア、ごろんと寝転がれるソファがあったり、家が狭くても座る種類がたくさんあると実は簡単にモードチェンジできますよ。」

空間を生み出すのであれば、部屋自体を区切ればいいのでは?と考えてしまいそうですが、理恵さんはこう続けます。

「人の気持ちってグラデーショナルだから、その気持ちを何LDKみたいな部屋で切りわけちゃうと中途半端なことをしたいときにどこにも居場所がなくなっちゃう。だから、広いところを高さや座り方でゆるやかに区切るほうが、空間が人を縛らずに多様な過ごし方ができると思います」

IDEA2:3つの照明のテクニックで空間をより素敵に

さまざまな人を優しく迎え入れるMIAMIAの空間ですが、そこに集った人々を照らす照明にもこだわりが。

「まず、大きなテーブルに集うというコンセプトだったので照明もテーブルと絶対同じ長さにしたかったんです。ペンダントライトもありえるけど、やっぱり点の照明って、点を中心に丸いスペースをつくるので、長いテーブルとの一体感をもっと強くしたいと思って」

お店の中心となる大きな照明、ラヴァーズシートのピンクの照明、ギャラリースペースを照らすスポットライト……理恵さん曰く、この計算しつくされた照明たちを住宅に活かせるルールがあるんだとか。

「照明は3つのポイントを意識的に考えるといいですよ。1つ目は空間の明るさを確保するベース照明。2つ目は空間の雰囲気を作る、ペンダントライトやブラケットライトなどの個性的な照明。3つ目は見せたいものをピンポイントで照らすスポットライト。家だったら、たとえばダイニングには暗めでいいからライトを落とすと、みんなが集まる雰囲気を出せますね。キッチンのタスクライトとかオフィスのテーブルランプとか、なにかひとつ変えるところから始めてみると楽しめます」

ヴォーンさんがとくにお気に入りだという、オーストラリアのアーティスト、ヘンリー・ウィルソンのブロンズのライト

IDEA3:ひとつのルールか、強いキャラをインテリアの中心に

照明もさまざまながら、ラヴァーズシートの横におもちゃのガチャガチャがあったり、外の席には角打ちのビールケースよろしく牛乳ケースが置いてあったりするのに、なぜかMIA MIAの空間は調和されている。その秘密はどこにあるのだろう。

「全体的なスタイルを突き詰めずに、なにかひとつルールをつくるだけで、調和もするし、ほかのものを受け止めやすい場になりますよ。
たとえば家をつくるときに、レトロな感じの空間にしたいとテイストを決めたのに、薄型テレビとかを置いてしまうと急に浮くじゃないですか。MIA MIAは、スタイルは決めないけれど、ひとつのルールとして、オーストラリアの赤土の色とユーカリのくすんだグリーンというカラーコードはくくっています」

元ブティックのこの建物が教えてくれたのは、もっと自由でいいということ。「統一感を持たせる、もしくはひとつ強いキャラを入れるといいですよ」と続ける理恵さん。

「よく『なんでこんな変なひさしをつけたんだろう?』みたいな古い建物ってあるじゃないですか(笑)。なにかを統一しようと思わなくともそういう強いもののまわりって、なにを置いてもかわいく見える。MIA MIAだと印象的なアーチ窓があるので、同じアーチの脚のベンチをつくりました。強いキャラとそのフォロワーたちがいると、あとは結構なんでも受け止められるんですよね」

MIA MIAのような、懐が深く、心地のいい居場所を自宅にもつくりだせるよう、まずは椅子や照明、小さなモノをひとつ変えるところから始めてみては?

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